ベテランの陥る罠|ベテラン中堅でも若手新人の意見を聞くべき理由(後)

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こんにちは、暮らしを良くする研究家のこんぎつねです。

前回の記事で専門性の高いベテラン・中堅が若手・新人の意見を押し切って重大な失敗をしてしまう「機長症候群」の例を紹介しました。

では、どうすればそのようなミスをなくすことができるのでしょうか。
歴史を元にその方法を紹介します。

優秀でなかったために世紀の発見をしたワトソンとクリック

あなたはワトソンとクリックという名前を聞いたことがあるでしょうか。

この2人はDNAの二重らせん構造を解明した、生物学界に永遠に輝く偉大な生物学者たちです。

この発見により後の分子生物学が飛躍的に発展し、1962年にはこの功績からノーベル生理学・医学賞を受賞しました。

後にワトソンはインタビューで

「なぜ2人が他の研究者たちに先んじてDNAの構造を解明できたのですか」

と尋ねられたとき、

「DNAの構造を解き明かそうとしていた研究者の中で自分たちはそれほど優秀でなかったからだ

と答えました。

続いてワトソンは

「当時この問題に取り組んでいた研究者の中で最も優秀だったのは、パリ在住のイギリス人、ロザリンド・フランクリンでした。ロザリンドはあまりに優秀だったので、めったに人にアドバイスを求めなかった。いちばん賢いということは、厄介なことなんです

と言っています。

行動学者のパトリック・ラフリンらは、グループ内で協力しあって問題を解決した場合は、グループで最も問題解決能力が高い人が1人で行った場合よりも優れていることを明らかにしました。
(参考:Groups Perform Better Than the Best Individuals on Letters-to-Numbers Problems: Effects of Group Size

グループ内のチームワークが悪く、ベテランがすべて決めてしまうのならばチームで考える意味がありません。

どれだけ専門性に優れたベテランといえど、若手・新人を含めた複数人の知識や経験、考え方のすべてをカバーすることはできません。

また複数人で問題解決に当たることにより、解決を同時に進めることができます。
複数人の知識、経験、思考を合わせ、問題を並列処理する
ここにチームワークの意義が出てきます。

では最終決定もベテラン・中堅・若手・新人、みんな1人一票の多数決で決めればいいのかというとそうではありません。

最終決定は最も深い知識と経験を持つベテランがするべきです。
多数決での決定は最良の決定にならないことが明らかになっているからです。

最終決定はベテランがしますが、決定に至るまでには他のメンバーの意見を聞くことが必要です。

若手・新人が意見を出しやすいように日頃から意見交換を行うことで、互いに協力しようというチームワークのいい組織ができます。

諫言(かんげん)を積極的に取り入れた唐の太宗

どうしたら若手・新人の意見も取り入れようという心が起こるのでしょうか。

中国史上有数の名君とされる皇帝に唐の太宗がいます。

太宗とは隋が崩壊に近づき、群雄割拠する時代に並み居る群雄たちを打ち倒し、唐の建国に活躍した李世民の皇帝即位後の名称です。

太宗の治世は「貞観の治(じょうがんのち)」と言われる中国史でも特に世の中が安定した時代で、この太宗の言行録をまとめたものが「貞観政要(じょうがんせいよう)」です。

「貞観政要」は平安時代に日本に入り、北条政子、徳川家康、明治天皇なども読んで学んだそうで、現代でもリーダー論の先駆けとして多くの人に読まれています。

その「貞観政要」の政体篇にこのようなことが書かれています。

貞観の初め、太宗が蕭瑀(しょうう)に語った。

「私は幼いころから弓矢を好み、自分ではその奥儀を極めたと思っていた。
ところが最近、良弓、十数張を手に入れたので弓工に見せたところ、『みな良材ではありません。』と弓工が言った。

その理由を聞くと、『木の芯がまっすぐでなく、木目がみな乱れています。どんなに剛勁な弓であっても矢がまっすぐに飛びませんので、良弓ではありません。』

そこで私は初めて悟った。

私は弓矢で四方の群雄を撃ち破り、弓を使うことが多かった。
しかし、なおその理を得ていない。

まして天子となってまだ日が浅いので、政治のやり方の本質については弓以上に及ばないはずである。

長年得意としてきた弓でさえもその奥儀を極めていないのだから、政治については全然わかっていないはずだ。」

こう言った後、太宗は在京の高級官僚を交替で宮中に宿直させ、いつも召し出だして座を与え、ともに語り合うようになった。

こうして人民の生活・政治の得失など世の中の動きを知ろうと努めたのである。(Wikipedia「貞観政要」より)

未熟な自分を批判する人が必要だと感じた太宗は、皇帝の間違いを諌(いさ)める諫官(かんかん)という官吏に毎月200枚の紙を渡し、どんどん間違いを指摘させたそうです。

また臣下が忠告しやすいようにいつもニコニコと温容に接したり、なかなか忠告がない場合は

「最近諫言(かんげん)する者がいない。私の意見に『ハイ、ハイ』と従ってばかりだ。私の言うことをただ聞くだけならば、そなたたちをこんな役職に付けはしない。私を恐れて、間違いだと思っていながらそれを言わないようなことはないようにせよ」(求諫篇第四)

忠告がないことを注意したそうです。

「俺の意見に文句を言うな」は聞きますが、「俺の意見にもっと文句を言え」と言う人は少ないでしょう。
ましてや太宗は皇帝ですからベテラン社員どころか、現代の首相や大統領以上の権力があります。

しかし太宗は「自分は政治のことがよくわかっている」とうぬぼれずに「自分は政治のことはちっともわからない。だから自分の間違いを指摘してくれる人が必要だ」と謙虚に臣下からの意見を積極的に聞き入れようとしたのです。

煩悩の1つ「慢」

仏教では私たちを煩わせ、悩ませる煩悩の1つに「」が教えられています。
「慢」とはうぬぼれ心のことで、7つに分けて七慢と言われます。

  1. 慢…自分より劣った相手を見て“情けないやつだ”とバカにする心
  2. 過慢…同じ程度の相手なのに、自分のほうが優れていると威張る心
  3. 慢過慢…間違いなく自分よりも相手が優れているのに、素直にそうとは認められず、自分のほうが上だと思う心
  4. 我慢…自分の間違いに気づきながらも、どこどこまでも自分の意見を押し通そうとする心
  5. 増上慢…さとりを開いてもいないのに、さとったと自惚れている心
  6. 卑下慢…「私ほどの未熟者はおりません」と深々と頭を下げることによって、「こんなに頭の低い者はいないだろ」とニンマリする心
  7. 邪慢…悪を自慢する心

自分のことはみんな良いようにしか思えません。
自分のことは欠点であってもすべて美点にしてしまいます。

ただでさえそうなのですからベテランになればなるほど、若手・新人の意見は聞けなくなってきます。

「自分はこの問題を解決するのに一番適している。なぜなら一番深い知識を持っているし、一番豊富な経験を持っている。だから自分の意見は正しい」と思いがちですが、そんなときには「いちばん賢いということは厄介なことなんです」と語ったワトソンや、自分を積極的に諌(いさ)めさせた太宗を思い出してみてはどうでしょうか。

彼らは「自分がいちばん優秀」と思わなかったから歴史に名を残しているのです。

まとめ

ベテランになればなるほど若手・新人の意見を聞けなくなり、また間違いを指摘されにくくなります。
そのために「機長症候群」となり、間違いに気付かず失敗をすることがあります。

「機長症候群」にならないためには「自分はいちばん優秀」という「慢」の心に惑わされず、他の人の意見を積極的に聞くことが必要です。

そのためには普段からチームワークを良くしようと努めなければなりません。
ただし意見をまとめた最終決定はベテランがすべきです。

私も他の人の意見をなかなか聞けないところがありますので、反省したいと思います。

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こんぎつね

チューリップ企画デジタルコンテンツ事業部にてサポートとインターネット業務にも携わっているこんぎつねです。(こんぎつねの記事一覧へ)チューリップ企画に来る前は愛知県で主に60代以上向けのイベントを運営していました。人について学ぶのが好きで、大学では生物学を専攻しました。よく読む本のジャンルは心理学、脳科学など人の心や体の行動に関するものが多いです。ブログもそれらの本を参考に、この悩みは 仏教ではこう解決するという内容を専門語を使わずになるべくわかりやすい言葉で発信することに心がけています。もっともっと多くの方の悩み疑問にお答えしたいと思っていますので、どうぞよろしくお願いいたします。
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